前回の記事では「場面緘黙」についての概要をお伝えしました。
今回は、場面緘黙のある人たちとのコミュニケーションの工夫についてご紹介します。
コミュニケーションを図るときのポイント
コミュニケーションは「ことばのキャッチボール」と例えられることが多いです。
- 投げ手(話す人)
- 受け手(聞く人)
例えば、投げ手が速すぎるボールや見当違いの方向に投げてしまったら、受け手はキャッチできません。
つまり、話す側は「相手が受け取りやすいボール(言葉)」を意識して投げることが大切です。
では、どんな言葉が受け取りやすいのでしょうか?
クローズドクエスチョンを活用する
答えやすさを考えると、選択肢を提示するクローズドクエスチョンが効果的です。
例えばジュースが好きな子どもに対して:
✕「何のジュース飲みたい?」
〇「りんごジュースとぶどうジュース、どっちがいい?」
このように具体的に選択肢を提示すると、答えやすくなります。
また、言葉で返答するのが難しい場合には、うなずきでの反応もOKとするなど、柔軟に対応していきましょう。
行動療法を用いる
場面緘黙の支援では、行動療法を活用することが多くあります。
行動療法は、「不安や話せない状態は、その場面への誤った反応の学習や、適切な反応の未習得によって生じている」と考え、行動そのものにアプローチする療法です。
今回はその中でもよく用いられる、以下の技法をご紹介します:
- シェイピング法
- プロンプト
- フェーディング
シェイピング法とは?
「話せるようになる」という最終目標に向けて、段階的に小さなステップを踏んでいく方法です。
はじめから「話す」というゴールを目指すのではなく、「目を合わせる」「うなずく」「声を出す」といった段階を設定し、徐々に進めていきます。
この過程で「プロンプト」や「フェーディング」を適宜使います。
プロンプト・フェーディング
- プロンプト(促し):目標となる行動を引き出すためのヒントや補助。
- 例:小さな声で一緒に答える、選択肢を見せる、うなずきを促す など。
- フェーディング(補助の減少):行動が安定してきたら、補助を徐々に減らしていくこと。
- 例:支援者の声かけを減らす、距離をとるなど。
これらは、場面緘黙に限らず、さまざまな支援の場面で活用されています。
実際の支援の進め方 ~話せる場面を少しずつ広げる~
行動療法を使ってコミュニケーション方法を身につけていくには、まずどのような場面で緘黙が起きているのかを特定することが重要です。
そのためには、保護者や学校関係者、直接関わっている支援者などから情報を集めましょう。
話せる「場所」を広げる
例:家の中でしか話せない子の場合
→ 家の前(郵便ポスト周辺など)で声を出してみる
話せる「人」を広げる
例:a君とだけ話せる子の場合
→ a君+b君(新しい友だち)と一緒に活動し、少しずつb君との会話も試みる
いずれのアプローチでも、本人の不安の程度に合わせて、段階的に・無理なく進めていくことが大切です。
関わりの工夫いろいろ
「こうしたらうまくいく」という決まった方法はありませんが、以下のような工夫が役立つことがあります。
場所に対する工夫
- 中間地点を使う
話せる場所と話せない場所の「中間」で話す練習をする(例:玄関の外など) - イメージの準備
新しい場所について、写真や地図、文字などであらかじめイメージを持たせる - スケジュール表の活用
「〇時から△△で話します」と視覚的に予定を伝える
人に対する工夫
- 問いかけの工夫
「何が好き?」よりも「AとB、どっちが好き?」と選択肢を与える質問形式にする - デジタル機器の活用
ボイスレコーダーや電話など、表情や反応が見えない方法で話す練習から始め、
慣れてきたらSkypeやZoomなどのビデオ通話→対面へと段階を踏む - 文字でのやりとり
手紙、交換ノートなど文字を使ったコミュニケーションも有効
対面ではなく、手紙でのやりとりから始めることで安心感が得られることも
まとめ
場面緘黙への支援では、「この方法が絶対に正解」というものはありません。
その子に合った方法を見極め、いくつかの手法を組み合わせながら支援を行うことが大切です。
まずは、「どの場所・誰の前で」話せなくなるのかを把握し、そこから少しずつ「話せる体験」を増やしていく。
それが、本人の自己肯定感や安心感にもつながっていきます。
少しでも、場面緘黙で悩む人たちの力になれたら幸いです。