「パパ、おしごと行ったね」「ママ、ワンワンいたよ」。
このような子どものひと言に、実は言葉の大きな発達のサインが隠れています。
子どもが言葉を覚える過程でとても重要なステップのひとつに、「非現前事象(ひげんぜんじしょう)」の理解と表現があります。
この記事では、少し聞き慣れないこの言葉を、わかりやすく解説しながら、子どもの言語発達を育む家庭での関わり方をご紹介します。
現前事象と非現前事象とは?
まずは、現前事象・非現前事象という言葉の意味について説明します。
現前事象(げんぜんじしょう)とは

目の前にあるものや、今まさに起きている出来事のことを指します。
たとえば、おもちゃを指さして「ブーブ!」という発語などがこれにあたります。
言葉は話し始めて子どもは、目についたものを言葉として発することが多いです。
■非現前事象(ひげんぜんじしょう)とは

今ここに存在しない人・物・出来事について言葉で表現することをいいます。
たとえば
■「パパ、おしごと行った」
■「また公園行きたい」など
目の前にない過去や未来、想像上のことを語る力です。
この非現前事象の力は、言葉を通して「見えないもの」を伝えるスキルとして、就学前の子どもにとってとても重要な力となります。
なぜ非現前事象は難しいの?
子どもは、まずは身の回りにあるもの(現前事象)を言葉にすることから始まります。
しかし、非現前事象を話すには、次のような力が必要です。
■記憶力
目の前にないものを思い出す力
■言語理解力
言葉だけで内容を理解する力
■時間の感覚
過去や未来を把握する力
■想像力
実際に見えない出来事を思い浮かべる力(象徴機能)
つまり、非現前事象は「ことばの抽象性」が高まるステップでもあります。
非現前事象はいつ頃から使える?|年齢ごとの発達のめやす
子どもが非現前事象を理解し、表現できるようになるのは言葉の段階的なステップが行われます。
■1歳前後
目の前の物に対して「ブーブ!」「ワンワン!」など、現前事象中心
■1歳半~2歳
■パパは?」「ごはんどこ?」など、見えない存在を質問
■2歳~2歳半
過去の出来事や見えない人について語ることが増える
2歳半~3歳以上
想像上の話や未来のことも語るように
※目の前にない言葉は少しずつ見られますが、非現前事象の発話は、概ね3歳ごろから本格的に発達すると考えられます。
【家庭でできる】非現前事象を育てる5つの関わり方
非現前事象の力は、日常の関わりや遊びの中で少しずつ育てていくことができます。
いないいないばあ・かくれんぼ

目の前から消えても「存在している」ことを理解する遊び。
「どこに隠れたかな?」「あっ、いたね!」など、消えたものが、再登場する概念を楽しみましょう。
絵本の読み聞かせ

絵本の物語は今この場にはないお話です。
「このあとどうなると思う?」「この動物、どこに行ったのかな?」と聞きながら読むことで、先を想像する力も育ちます。
思い出話

「昨日はどこ行ったっけ?」「おばあちゃんに何したかな?」と過去の出来事を一緒に振り返ることで、記憶の定着や言葉の表現を身に付けることにも繋がります。
ごっこ遊び・見立て遊び

ぬいぐるみにご飯をあげる、赤ちゃん人形を寝かせるなどのごっこ遊びは、「実際には起きていないこと」を言葉にする時間にもなります。
写真や絵カードを使った会話
「このとき、どこ行ったの?」「誰と一緒だった?」など、視覚的なヒントを使って記憶を引き出すことも、思い出すきっかけとなります。
「見えないことを話す」って、すごいこと!
「パパ、おしごと行った」「また~行きたい」など、子どもが非現前事象を語ったときは、言葉が発達している証でもありまうs。
「よく覚えてたね」「ママもそう思う」などと共感的に返すことで、子どもは安心して言葉を話せる時間を作り出すことができます。
まとめ
始めは目に見えるものから言葉を覚え、徐々に見えないものへと広がります。
目の前にないことの話だと大人にわかりにくい部分も出てくるかもしれません。
しかし、そのようなときこそ、子どもの言葉に耳を傾ける必要があります。そのため、子どもの言いたいことを引き出せるような関わりをすると互いに楽しめるのではないでしょうか。