お子様と楽しくおしゃべりしている中で、「『きつつき』が『ちつつち』になってしまう」「『た』や『な』を言うときに、小さな舌が前歯の間からチラッと見えている」といったことに気づき、不安を感じる保護者の方は少なくありません。
幼児期の言葉の発達には個人差が大きく、多くは成長とともに自然に改善されていきます。
しかし、「なぜそのような発音になるのか」というメカニズムを知ることで、大人は過度な心配を手放し、日常生活の中で適切なサポートができるようになります。
本記事では、そのようになってしまう理由と、ご家庭で遊びながら無理なく取り組める改善策を詳しく解説します。
なぜ「き」が「ち」になってしまうのか?
「き(ki)」が「ち(chi)」に置き換わってしまう現象は、幼児期に非常に頻繁に見られる「構音(こうおん)の誤り」の一つです。
これには、舌の動きの発達段階が深く関わっています。
舌の奥を使う「き」と、前を使う「ち」
日本語の子音を発音する際、舌は口の中の様々な場所に触れたり近づいたりします。
■カ行(き)の発音
舌の「奥の方(舌根部)」を持ち上げて、上あごの奥(軟口蓋)にくっつけ、それを離すときの破裂音で作られます。
■タ行(ち)の発音
舌の「前の方(舌尖部・舌端部)」を持ち上げて、上の前歯の裏側あたりにくっつけて作られます。
幼児にとって、目に見えにくくコントロールが難しい「舌の奥」をピンポイントで動かすことは、非常に難しいです。
そのため、無意識のうちに「より動かしやすく、コントロールしやすい舌の前方」を使って代用してしまいます。
「過緊張」によるコントロール不足
さらに重要なのが、「舌に力が入りすぎている(過緊張)」ということ。
「き」を発音するためには、舌の奥を「柔らかく」持ち上げる必要があります。
しかし、一生懸命に話そうとするあまり舌全体が力んで硬直していると、奥だけを器用に持ち上げることができません。
結果として、平べったく固まった舌が力任せに前に押し出され、「ち」という発音になってしまうということも考えられます。
なぜ「た行」「な行」で舌が前歯からはみ出るのか?
舌が前歯よりもはみ出てしまうことは、本来の正しい発音の位置からずれてしまっているサインです。
正しい「た・な行」のスポット
大人が「た・て・と」「な・に・ぬ・ね・の」と発音してみてください。
舌の先が、上の前歯の裏側から少し奥にある、ぽっこりした歯茎の膨らみ(スポットと呼びます)に優しくピタッと当たっているかと思います。
舌が出てしまう4つの主な原因
■口周りや舌の筋力不足
舌を上あごにしっかりと吸い上げてキープする筋力が弱いため、舌が重力に負けて低い位置に落ちてしまいます(低位舌)。
そのまま発音しようとすると、前方に滑り出てしまいます。
■口呼吸の習慣
鼻づまりなどで日常的に口をポカンと開けていると、舌は常に低い位置に置かれ、発音時にも飛び出しやすくなります。
■不安定さを補うための「代償(だいしょう)」と「過緊張」
あごや唇の力が弱く口元が不安定な場合、脳は「どこかに力を入れて固定しなければ」と判断します。
その結果、舌を丸太のようにガチッと固くして前歯に押し当て、無理やり口の動きを安定させようとします。
ブレーキが効かず、前歯を突き破るように舌が出てしまうということもあります。
発音の癖に共通する「根っこ」とは?
「き」が「ち」になることと、舌の突出。
一見違う問題に見えますが、根底には「舌やあごを独立して滑らかに動かすコントロール能力(協調運動)の未熟さ」と「感覚の鈍さ」があります。
幼児期の舌は、まるで大きな一つの塊のようにしか動かせない時期があります。
また、自分の舌が口のどこにあるかという「感覚(固有受容覚)」が未熟なため、上あごや歯に「ギュッ」と強く押し付けることで、その強い刺激から舌の位置を確かめようとしている側面もあります。
家庭でできる!遊びを通した改善アプローチ
発音の練習において最も重要な鉄則があります。
それは、「今の言い方、違うよ!『き』でしょ!」と間違いを直接指摘しないことです。
指摘され続けると話すこと自体にコンプレックスを抱き、他の不安な気持ちを作り出してしまうこともあります。
ご家庭では、「遊びの中で、口周りの緊張を解き、感覚と筋力を育てること」に徹しましょう。
まずは「力を抜く(脱力)」遊びから

力みすぎているお口には、筋トレよりもリラックスが必要です。
■お顔のモミモミ・マッサージ
おしゃべりする前やスキンシップの時間に、ほっぺたやあごの周りを大人の手で優しくマッサージをしてあげましょう。
■あくびのマネっこゲーム
「ふわぁ〜」と大きな口を開けてあくびのマネをします。のどの奥や舌の根元の力を抜く、自然で最適なストレッチです。
■あっかんべーでダラ〜ン
舌を思い切り下に向けて「あっかんべー」をした後、「ダラ〜ン」と言いながら舌を唇の上で休ませます。
緊張と弛緩(しかん)を繰り返すことで、力加減を学びます。
舌の奥を使う感覚を育てる遊び(カ行の改善)

■「うがい」の練習
舌の奥を持ち上げて水をせき止める絶好のトレーニングです。
まずは水を含まずに上を向いて「あー」と声を出すところから始めましょう。
■ゴロンと寝転がっての発声
仰向けに寝転がると、重力で舌が自然と奥へ下がります。
この状態で「カラスのカァカァだよ」「コッコッコッ」と動物の鳴き声遊びをすると、舌の奥を使う感覚がつかみやすくなります。
舌先の感覚を研ぎ澄ませる遊び(タ・ナ行、舌突出の改善)

■スポットを覚える「タッチ・ゲーム」
歯磨きのついでに、歯ブラシの背中や清潔な指で、上の前歯の裏の歯茎(スポット)をチョンチョンと触り、「ここがベロの駐車場だよ」と遊び感覚で教えます。
■ペロペロなめなめゲーム
唇の周りに少しだけジャムやヨーグルトを塗り、舌先を尖らせて舐め取ります。舌を細かくコントロールする力が養われます。
■上あごに「ポンッ」と音を鳴らす
舌全体を上あごに吸い付けて、下あごを下げながら舌打ちの音を鳴らします。舌を正しい位置に持ち上げる強力なトレーニングになります。
呼吸と口唇を閉じる力を育てる遊び

■吹き戻し(ピロピロ笛)やシャボン玉
息を長く吹く遊びは、唇をキュッと閉じる力(口輪筋)を育てます。唇の力が、舌が外に出るのを防ぐ防波堤になります。
■よく噛んで食べる
奥歯でしっかり噛むことで顎の安定感が増し、舌の土台がしっかりします。
まとめ
「き」が「ち」になったり、舌がはみ出したりするのは、お子様が一生懸命にお話ししようと、不器用ながらも口周りの筋肉をフル稼働させている証拠です。
多くの場合、4〜5歳頃にかけて機能が発達するにつれて、自然に正しい位置で発音できるようになっていきます。
ご家庭では、発音そのものを直すのではなく、「大人がゆっくり、はっきりと正しい発音を聞かせてあげること」と、今回ご紹介した「お口のリラックス&体操遊び」を楽しむことを心がけてみてください。
焦らず、親子のコミュニケーションを楽しみながら、言葉の土台を育てていきましょう。