言葉を獲得する要素についてのお話。
言葉は1歳頃始語として表出されることが多いですが、表出される前から言葉の獲得準備をしています。
今記事の内容はどの年齢でも同じですが、2歳頃までの言葉の発達を想定して話を進めます。
言語獲得の要素
言葉の獲得は単一の要素で成立するのでなく大まかに下記の3つの要素の組み合わせがあります。
A.コミュニケーション意欲
自分の思いを伝えたいという気持ち。
赤ちゃんは泣くことによって自分の気持ちを伝えます。
認知面や運動面の発達を経てアイコンタクトや指差しなどの表現方法を獲得していきます。
これらの発信は対象物を見て欲しいという共感から得られます。
アイコンタクトや指差しなどの行動によってママやパパに思いを伝えられると、「もっと伝えてみよう」と気持ちが芽生え言葉を獲得していきます。
例えば私たちが言語の通じない外国へ行ったとします。
その場合どのような手段で交流するでしょうか。恐らくジェスチャーやスマートフォンを用いてコミュニケーションするかと思います。
では、もし現地の人からジェスチャーやスマートフォンでなく「言葉で話す(音声言語)」と言われたらどうでしょうか。
日本語も通じず、異国文化の言語もわからず殻に籠る思いかと思います。
言語獲得していない子どももそれは同じです。
「出来ないものでコミュニケーションして」と言われるよりも「何でもいいからやってごらん」とあらゆる手段を用いる方がコミュニケーション意欲が高まるのでは無いでしょうか。
B.言葉の理解
言葉の理解には動作(ジェスチャー)、幼児語、成人語があり、これは言葉の表出でも同様です。
意味のない(理解してない)言葉は自分からコミュニケーションとして出せません。
例えば
「りんご」「ねよく」という2つの言葉を1ヶ月後までに覚える学習があったとしたら、1ヶ月後に覚えている言葉「りんご」ではないでしょうか。「ねよく」という言葉は意味のない言葉であり、それを学習する場合記憶術を使用しなければないりません。一方「りんご」は果物のりんごと理解出来るため、1ヶ月後でもすぐに言えると思います。
このように意味を理解しているものと、ないものでは脳の負荷量が全く異なります。
先に挙げた動作、幼児語、成人語については下記のとおりです。
①動作(ジェスチャー)
食べる動作を見たらスプーンを選べる
②幼児語
「あむあむ」【幼児語(オノマトペ)】と聞いたらスプーンを選べる
③成人語 ※私たちが使っていることば
「スプーン」と聞いたらスプーンを選べる
※言葉の理解力の学習の際は①動作の理解力から始めてみましょう。
そして言語の獲得を目指すために動作+幼児語を併用しながら言葉の理解力の学習を進めていくことが言葉の理解力を伸ばす近道です。
理解力には動作や幼児語・成人語それぞれを理解出来る必要があります。
日常生活では周囲の状況を読み取ることで理解していることが多いです。
しかし、それが必ずしも音声理解が出来ているとは限りません。
音声理解の確認は状況や動作などを除外した音声のみでの判断をすることが求められます。
C.言葉の表出
言葉の理解力同様、動作(ジェスチャー)、幼児語、成人語での表出があります。
言葉の表出の最終目標は成人語であることが多いため、始めから成人語を目指すのでなく動作、幼児語の表出を目指すことの方が容易です。
幼児語として使われる言葉はオノマトペであることが多く、子どもにとって話しやすい言葉として知られています。
話しやすい理由として
・物と音が結びつきやすい
例)犬はワンワンと鳴くから「ワンワン」
・同じ音の繰り返しが多い
例)「ワンワン」は「ワン」の繰り返し
・口の動作が発達過程の子どもは音の種類が少ない方が負担が少ないです。
これらの理由から子どもにとって話しやすい言葉とされています。
言葉の表出の注意点
動作の表出を学習する場合は動作理解、言葉を話すことを学習するのであれば音声理解の学習が不可欠です。
動作理解の方が音声理解よりも学習しやすいため、早期に学習することが多いです。そのため始めは動作での表出を獲得することを勧めます。そこから幼児語、成人語へ段階を上げていきましょう。
最も重要な関わり方(非言語と言語のバランス)
既存獲得のコミュニケーション手段に音声を乗せるイメージで関わりましょう。
例えば、口に食べ物を運ぶ動作があったとしたら、教え側は動作+幼児語(あむあむ)で伝える。
既存獲得していない状態ではコミュニケーション意欲の低下を招きます。そのため子どもにとって比較的容易に獲得出来るコミュニケーション(ジェスチャーなど)の習得から目指していきましょう。
音声表出のみでコミュニケーション出来るまで非言語コミュニケーションの学習を音声表出同様に継続していきましょう。
音声言語表出の学習の懸念点
音声言語表出の学習に取り組むことがありますが、その際に指導者が注意する点があります。
①音声模倣で音の獲得を目指すことも出来ますが表面上の獲得になりがち
例えば「あお」の音声表出を獲得した場合でも、「あお」という音声と青という色を結び付ける学習が必要です(マッチング学習)。
音と意味を結び付けなければ、コミュニケーションとして成立しません。
※音声模倣に関してもやり方を熟知していなければなりません。
②模倣の学習方法を熟知する必要ある。
模倣とは真似する意味のことだが、真似するという概念形成から始めることも少なくありません。どうしたら真似してもらえるのかを考える必要があります。
③音声言語の表出に焦点を当てるとコミュニケーション意欲や言葉の理解面を疎かにしてしまう。
表出練習をする→出来ない→継続するのサイクルを繰り返してしまうことが多いです。達成できないのであれば目標を下げる勇気も必要です。
(本来はコミュニケーション意欲や理解面が非常に重要)
④好ましくない場面で表出される可能性
音声言語の獲得は喜ばしいことですが、好ましくない場面での表出も増えることを指導者は留意しなければなりません。
例)マッチングが出来ていない状態で「あお」の音声言語の表出を獲得した場合、様々な場面で「あお」という機会が増える。家庭内や外出先でも「あお」「あお」と言うこと念頭に学習を進めなければなりません。
余談(好き・嫌いの気持ち)
Instagramストーリーズの質問の中に「何が好き?に答えられるためには」というものがあったので、学習方法の紹介。
考えられ理由として
①好き嫌いの概念
②疑問視の概念
③非現前事象の概念
これらが考えられます。
それらの学習として以下を挙げます。(横の数字=考えられる理由の番号)
・カテゴリー分類 ①
好きなもの、嫌いなものを分類する学習も面白いかもしれません。
※あらかじめ学習者の好き、嫌いなものを事前に調べる必要があります。
・質問と答えを伝える ① ②
好き、嫌い以外にも疑問詞の学習に使用することが多いです。
これは一連の会話の流れを指導者側がまとめて伝えるという学習方法。
例えばりんごが好きなA君に「何が好き?」という質問をしても答えることが苦手な場合。
指導者→「何がすき?」「りんご」 と続けて伝えます。これを数回繰り返します。
指導者→「何がすき?」と質問のみを伝えます。
A君→「りんご」と答えられたら、繰り返し練習することと「りんご」以外のものでも言えるようにレパートリーを増やす。
※A君が答えられない場合ヒントを与えましょう。語頭音や絵カードなど。答えられるようになったらヒントを無くして自発話を促します。
・現前事象の状況説明 ③
目の前にあることの説明の方が非現前事象よりも簡単であるため、状況画などを用いて説明力の学習をしていきましょう。
例えば動物園のイラストを見ながら、「何がいる?」と説明してもらうことや、「ライオンはいた?いなかった?」と選択肢を与えて答える(クローズドクエスチョン)学習や物語カードの並び替えや4コマ漫画を使った学習などもあります。
まとめ
今回は言語獲得の必要となる要素を紹介しましたが、A~Cのそれぞれについても学習方法が全く異なります。
これらの要素は自然と獲得出来る子もいれば教える必要のある子もいます。
言葉は個人差が大きいと言われており、子どもによって学習する言葉は異なります。
そのため学習を進める時は個人に合わせたオーダーメイドのプログラムを考える必要があります。
そのプログラムを考える一つの手立てとして今記事が参考になれば幸いです。