「言葉は知っているのに会話が噛み合わない」を紐解く~語用論的アプローチの基礎と実践

発達障害(特にASD)やコミュニケーションに課題を持つ方々の支援において、以下のような場面に遭遇することはないでしょうか?

「語彙力は高く、大人のような言葉を使うのに、会話のキャッチボールが続かない。」

「「ちょっと待って」と言ったら、永遠に待ち続けてしまった(字義通りに受け取る)」

「相手が時計を気にしているのに、自分の話を止められない。」

「先生や上司に対して、友達のような口調で話してしまう。」

これらは単なる「わがまま」や「性格」ではなく、「語用論(Pragmatics)」の課題である可能性があります。

本記事では、言葉の「意味」ではなく「使い方」に着目する語用論的アプローチについて、大切な視点と具体的な支援策を解説します。

そもそも「語用論」とは何か?

言葉には大きく分けて2つの側面があります。

  1. 形式・意味(語彙・文法)
    「リンゴ」という単語の意味や、てにをは等の文法。
  2. 使用(語用論)
    文脈や相手に合わせて、言葉をどう使うかという社会的ルール。

    語用論とは、「文脈の中で、言葉がどう使われ、どう解釈されるか」を扱う領域です。
    いわば、言葉の「運用ルール」や「暗黙の了解」のことです。

具体例:文脈による意味の変化

例えば、窓が開いていて寒い部屋で、「ここは寒いですね」と言ったとします。

字義通りの意味: 室温が低いという事実の報告。

■語用論的な意図: 「窓を閉めてください」または「暖房をつけてください」という依頼。

語用論に課題がある人は、この「裏にある意図」を汲み取るのが苦手です。
「そうですね、気温は10度です」と事実だけを返して会話が終わってしまうことが起こり得ます。

\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場

語用論的課題の主な特徴

支援の現場でよく見られる「語用論的につまずいているサイン」を整理します。

① 「字義通り」の解釈

冗談、皮肉、比喩、慣用句が通じにくい状態です。「首を長くして待つ」と言われて、物理的に首を伸ばそうとするようなケースが典型的ですが、もっと日常的なレベルでも起こります。

例:「適当にやっておいて」→ 具体的な指示がないため、動けなくなるか、全く違うことをしてしまう。

② 文脈(空気)を読むことの難しさ

その場の状況や、以前の会話の流れを踏まえることが苦手です。

例:深刻な会議の場面で、関係のないテレビの話を唐突に始めてしまう。

③ 前提情報の共有不足

「相手が何を知っていて、何を知らないか」の推測が難しいため、主語が抜けたまま話したり、相手が知らない専門用語を一方的に話したりします。

④ 交代(ターン・テイク)の不調

会話のキャッチボールのタイミングが合わない状態です。相手の話が終わる前に割り込んだり、逆に沈黙が怖くて一方的に話し続けたりします。

支援者のための「語用論的アプローチ」実践法

従来の言語訓練(語彙を増やす、構文を直す)だけでは、コミュニケーションの課題は解決しません。

語用論的アプローチでは、「社会的文脈の中でどう振る舞うか」を具体的に学習・支援します。

アプローチ①:暗黙のルールの「明示化」

「空気を読んで」は通用しません。隠れたルールを言葉や文字ではっきり伝えます。

曖昧な指示を避ける:
×「ちゃんとして」
○「背中を椅子の背もたれにつけて座ります」

理由を言語化する:
×「静かにしなさい」
○「今は○○さんが発表している時間です。他の人に声が聞こえるように、私たちは声を出さずに聞きます」

アプローチ②:視覚的支援(コミック会話など)

言葉だけでは消えてしまう情報を、絵や図で可視化します。
キャロル・グレイが提唱した「コミック会話(コミックストリップ・カンバセーション)」が有効です。

吹き出しを活用する
棒人間を描き、発言の「吹き出し」だけでなく、心の中で思ったことの「思考の吹き出し(雲形)」を描き込みます。
支援者:「あなたが『バカ』と言った時、相手の『思考の吹き出し』には何が書いてあると思う? 『悲しい』『嫌だな』と思っているかもしれないね」 このように、見えない他者の意図や感情を視覚化して理解を促します。

アプローチ③:スクリプト(台本)の活用

特定の場面で「何と言えばいいか」のテンプレートを用意します。

定型句の練習
人にぶつかった時 → 「すみません」
手伝ってもらった時 → 「ありがとう」
話に入りたい時 → 「いま、いいですか?」

ソーシャル・ストーリー
特定の社会的状況(例:行列に並ぶ、負けた時の振る舞い)について、肯定的かつ記述的な文で構成された短い物語を読み、適切な振る舞いを予習します。

\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場

アプローチ④:メタ語用論的意識の育成

「今の言い方はどうだったか?」を振り返る力を育てます。
会話の録音やビデオを見返し、「ここで相手が少し下がったね。なぜかな?」「声が大きすぎたかもしれないね」と、客観的に分析する機会を作ります。※本人の自尊心を傷つけないよう、信頼関係が必須です。

支援者に求められるマインドセット/翻訳者になる

語用論的アプローチにおいて最も大切なのは、当事者を「矯正」しようとするのではなく、「異文化コミュニケーション」として捉える姿勢です。

彼らは「悪気があって失礼なことを言っている」のではありません。「多数派(定型発達)の文化コード」を知らない、あるいは直感的に掴みにくいだけなのです。

支援者の役割は、以下の2つの方向性を持つ「翻訳者」になることです。

社会のルールを翻訳して伝える
「世の中では、目上の人には敬語を使うというルールがあるよ。それは相手を尊重しているサインなんだ」とロジックで伝える。

彼らの言葉を社会へ翻訳する
周囲に対して「彼は怒っているのではなく、その話題にとても熱心なだけなんです」「具体的な数字で指示を出すとスムーズに動けます」と代弁し、環境調整を行う。

まとめ

語用論的アプローチとは、単に「会話のテクニック」を教えることではありません。 「言葉の背後にある他者の意図」に気づかせ、「自分の言葉が他者にどう影響するか」を学ぶプロセスです。

「言葉は通じるのに、なぜかうまくいかない」 そう感じた時こそ、語彙や文法ではなく、「語用論」のメガネをかけてみてください。

見えていなかった「つまずきの石」が見つかり子どもの発達に結びつけることができるのではないでしょうか。

-支援者向け
-