思考に飲み込まれない技術「脱フュージョン」で心の自由を取り戻す

現代社会を生きる私たちは、絶えず何らかの思考に晒されています。

仕事のミスを思い出しては「自分はなんてダメなんだ」と責めたり、将来への不安から「きっとうまくいかない」と決めつけたり。

こうした思考は、一度捕まると頭から離れず、私たちの気分を沈ませ、本来やりたいはずの行動を制限してしまいます。

こうした「思考の罠」から抜け出し、より自分らしく、しなやかに生きるための心理療法として注目されているのが、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)です。

今回は、その核心的なスキルである「脱フュージョン(Defusion)」についてのお話。

フュージョンという「心の癒着」

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脱フュージョンを理解するためには、まずその対義語である「フュージョン(心理的融合)」について知る必要があります。

フュージョンとは、自分の頭の中に浮かんだ思考と、自分自身がぴったりとくっついてしまい、切り離せなくなっている状態を指します。

思考とフュージョンしているとき、私たちはその思考を「絶対的な真実」や「従わなければならない命令」、「今すぐ対処すべき緊急事態」として扱います。

例えば、「私は無能だ」という思考が浮かんだとき、それが単なる脳内の言葉ではなく、自分という人間を表す動かしがたい事実であるかのように感じてしまうのです。

この状態は、泥のついたサングラスを顔に密着させてかけているようなものです。

レンズが汚れているために世界が茶色く見えているだけなのに、私たちは「世界そのものが汚れている」と思い込み、その歪んだ視界の中で絶望してしまいます。

脱フュージョン:思考を一歩引いて眺める

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脱フュージョンとは、この「癒着」を剥がすプロセスです。

思考を消し去ったり、無理やりポジティブに変えたりするのではなく、思考を「ただの思考」として、一歩引いた場所から客観的に眺める技術を指します。

先ほどのサングラスの例で言えば、サングラスを顔から外し、手に持って眺めるような感覚です。

「あぁ、このレンズには泥がついているな」と気づくことができれば、視界はクリアになり、泥(=ネガティブな思考)があっても、それに惑わされずに歩き出すことができます。

脱フュージョンが目指すのは、思考の内容を変えることではなく、思考との「関係性」を変えることです。

思考を敵として戦う対象にするのではなく、脳が自動的に生成する「言葉やイメージの断片」として扱う練習をしていきます。

なぜ脳はネガティブな思考を作り続けるのか

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脱フュージョンを実践する上で知っておきたいのが、私たちの脳の仕組み。

人間の脳は、進化の過程で「生き残ること」を最優先に設計されてきました。

原始時代、草原でカサカサと音がしたとき、「風のせいかな」と楽観的に考える個体よりも、「猛獣かもしれない!」と最悪の事態を想定して警戒する個体の方が生き残る確率は高かったです。

そのため、現代においても私たちの脳は、放置しておけば自動的に不安や自己批判、最悪のシナリオといったネガティブな思考を生成し続けるのではないでしょうか。

これは脳が正常に「危険を予測しよう」と働いている証拠であり、欠陥ではありません。

しかし、現代社会において、その「脳の警報」が必ずしも役に立つとは限りません。

脱フュージョンは、この過剰な警報に対して「教えてくれてありがとう。 でも、今はその警告に従う必要はないよ」と、冷静に対応するための知恵なのではないでしょうか。

今日からできる脱フュージョンの実践テクニック

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脱フュージョンは理屈ではなく、スキルの習得に近いものです。

日常生活で思考に飲み込まれそうになったとき、以下のようなエクササイズを試してみてください。

◼️「〜という思考を持っている」と付け加える
これは最もシンプルで効果的な方法です。
「私は無能だ」と思ったら、心の中で「私は、『自分は無能だ』という思考を持っている」と言い換えてみます。さらに余裕があれば「私は、『自分は無能だ』という思考を持っていることに気づいている」と広げてみましょう。これだけで、思考と自分の間に確実な隙間が生まれます。

◼️思考に名前をつける
自分を苦しめるお決まりの思考パターンに、ニックネームをつけてみましょう。
例えば、いつも将来を不安がる思考には「占い師ストーリー」、自分を責める思考には「鬼コーチの説教」といった具合です。
「あ、また『占い師ストーリー』が始まったな」と実況中継することで、思考の深刻さが和らぎます。

◼️思考に飲み込まれない技術:「脱フュージョン」で心の自由を取り戻す
深刻な悩みを、有名なアニメの主題歌や、陽気なバースデーソングのメロディに乗せて脳内で歌ってみます。
あるいは、ドナルドダックのような変な声でその思考を再生してみるのも良いでしょう。
思考が持つ「恐ろしさ」や「重み」が剥がれ落ち、ただの「音の羅列」であることを実感しやすくなります。

◼️パソコンのポップアップ広告として扱う
嫌な思考が浮かんだら、それをパソコンの画面に出てくる「邪魔な広告」に見立ててみます。消そうと躍起になるのではなく、ただ画面の端に表示されているのを認め、そのままにしておきます。あなたは広告を眺めながら、本来やりたかった作業(=目の前の大切なこと)を続けることができます。

◼️感謝を伝える
脳がネガティブな思考を提示してきたら、「教えてくれてありがとう、脳さん。私の安全を守ろうとしてくれてるんだね」と、心の中で軽くお礼を言ってみます。戦うのをやめることで、思考が持つ支配力が弱まります。

バスと乗客のメタファー

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ACTでよく使われる比喩に「バスの運転手」というものがあります。

あなたは自分の人生という名のバスの運転手です。そして、頭の中に浮かぶ思考たちは、バスに乗ってくる「騒がしい乗客」です。

乗客たちは、あなたに汚い言葉を投げかけたり、「そっちの道は危ないぞ」「引き返せ」と脅してきたりします。

フュージョンしている状態は、乗客の脅しに屈して、彼らの言う通りにハンドルを切ってしまう状態です。

しかし、脱フュージョンができている状態では、乗客がどれほど騒いでいても、あなたは前を向き、目的地に向かってハンドルを握り続けることができます。

乗客をバスから無理やり引きずり出す必要はありません(それは不可能ですし、事故の元です)。

彼らが騒いでいるのをバックミラー越しに確認しながら、「賑やかなことだ」と受け流し、あなたは自分の価値観に基づいた道を進みます。

脱フュージョンの先にあるもの

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脱フュージョンの目的は、不快な思考をなくすことでも、幸福感に浸ることでもありません。
その真の目的は、思考に振り回されることに費やしていた膨大なエネルギーを、「自分が本当に大切にしたいこと(価値観)」のために使えるようにすることです。

「失敗するかも」という思考があっても、挑戦したい仕事に応募する。

「自分は嫌われているかも」という思考があっても、友人に連絡を取ってみる。

脱フュージョンができるようになると、思考があなたの行動を決定する「主人」ではなくなり、あなたが人生の主導権を取り戻せるようになります。
思考は、雲のように現れては消えていく自然現象のようなものです。

その雲の向こう側には、常に広大な空(=あなた自身)が広がっています。

雲を消そうと空を見上げるのをやめるのではなく、雲が流れていくのを眺めながら、あなたはあなたの人生を一歩ずつ歩んでいってください。
この脱フュージョンというスキルは、一度で完璧にできるものではありません。

しかし、日々の生活の中で「あ、今フュージョンしてるな」と気づく回数が増えるたびに、あなたの心の自由度は確実に増していくのではないでしょうか。

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