「大人が言っていることは全部わかっているし、おしゃべりも大好き。でも、どうしても発音がふにゃっとしていて、何を言っているのか聞き取れないことがある」
幼児期のお子さんを育てる保護者の方から、このようなお悩みを聞くことは決して珍しくありません。
言葉がはっきりしないと「言葉の発達が遅れているのでは?」と不安になるかもしれません。
しかし、「大人の言葉を理解できている」ということは、お子さんの頭の中にある「言葉の意味を処理する力」が順調に育っているという素晴らしいサインです。
では、なぜ「理解」と「発音」にズレが生じるのでしょうか。
それは、言葉を理解する脳の働きと、実際に口を動かして音を作る働きが、それぞれ全く別のスピードで成長していくからです。
この記事では、お子さんの発音が不明瞭になる理由と、ご家庭で楽しくできるサポート方法、そして専門家を頼るベストなタイミングについてお話をします。
発音は「お口を使った高度なスポーツ」

私たち大人は息をするように言葉を話していますが、実は「発音」というのは、肺から息を出し、声帯を震わせ、舌・唇・あごなどの筋肉をミリ秒単位で細かくコントロールしなければならない、非常に高度な運動です。
「あいうえお」は3歳、「サ行・ラ行」は5〜6歳が目安
音の種類によって、マスターできる年齢には大きな差があります。
■母音(あ・い・う・え・お)
口の開け閉めだけで作れるシンプルな音なので、おおむね3歳頃までにはクリアに言えるようになります。
■ 子音(カ行、サ行、ラ行など)
舌先を絶妙な位置に当てたり、息の漏れ具合を調整したりする職人技が必要です。
そのため、9割の子どもがすべての子音をマスターするのは、5歳から6歳頃だと言われています。
つまり、3〜4歳の時期に「せんせい」が「てんてい」になったり、「テレビ」が「てでび」になったりするのは、まだお口周りの筋肉や舌のコントロールが未熟なためにおこる「自然な言い間違い」です。
滑舌がスッキリしない4つの理由

年齢的な未熟さ以外にも、発音がなかなかクリアにならない背景にはいくつかの理由が隠れていることがあります。
① 「間違った舌の使い方」がクセになっている
耳の聞こえやお口の形に問題がないのに、特定の音だけが間違った発音として定着してしまうケースです。
多くは自然に改善しますが、中には「息が口の横から漏れてクチャッという音がする」といった、通常の成長過程では見られない特殊なクセがついている場合があります。
この場合は、専門家と一緒に舌の正しい使い方を練習する必要があります。
② お口ポカン(口呼吸)と筋力不足
最近、口呼吸の人が多くなってきている印象です。
普段から口が開いたままの「口呼吸」が習慣になっていると、唇や頬の筋肉が育ちません。
口呼吸をしていると舌がだらんと下に落ちてしまうことも多いです。
舌が常に下にあると、発音の要である「舌を上あごに持ち上げる力」が育たず、タ行やラ行、サ行などが極端に苦手になってしまいます。
③ お口の構造(器質的)な理由
頻度は少ないですが、舌の裏の筋が短くて舌を上に持ち上げられない「舌小帯短縮症」や、見えにくい部分にある口蓋裂、極端な歯並びの問題などが原因で、物理的に正しい音が出せないことがあります。
そのような場合は、耳鼻咽喉科や歯科でのチェックが必要です。
④ 言葉を組み立てる力全体がゆっくり
言葉の意味はわかっていても、自分の考えを文章にまとめたり、語彙を使いこなしたりする力全体がマイペースに成長しているお子さんもいます。
この場合、発音のふんわり感は、言葉の全体的な発達ペースを反映しているものと考えられます。
言葉の発達サイン
言葉と発音の発達には個人差がありますが、年齢別にどのような言葉の能力を獲得していくのか、大まかな目安をまとめました。お子様の成長を感じる参考にしてみてください。
年齢別の言葉の発達目安

- 0歳: 「あー」「うー」といった赤ちゃん特有の声(喃語)を出すようになります。
- 1歳(1歳半頃): 親の呼びかけに反応したり、欲しいものを「あっ!」と指さす行動(指差し)で伝えるようになります。また、「まんま」や「わんわん」など、意味のある言葉が少しずつ出始めます。
- 2歳: 大人の簡単な指示(「これポイしてきて」など)を理解して行動できるようになります。また、「わんわん、きた」のように2つの言葉を繋げた2語文を話し始め、自分から積極的にお話ししようとする姿が見られるようになります。
- 3歳: 「りんご」などの単語の全体を言えるようになり、2語文やそれ以上の文を使ってお話しするようになります。「あいうえお(母音)」の発音もはっきりしてきて、言葉でのやり取りがますます楽しくなる時期です。
- 4歳: いわゆる「赤ちゃん言葉」が減り、発音できる音がぐっと増えます。言葉がはっきりしてくるため、家族以外の人にも自分の言いたいことがしっかりと伝わるようになり、スムーズに会話を楽しめるようになります。
- 5歳・6歳: 難しい音も含めて、ほとんどの音を大人と同じようにきちんと発音できるようになります。同世代のお友達とも会話のキャッチボールがうまくできるようになり、自分の気持ちや出来事を相手に伝わるようにお話しできるようになります。
- 小学生以降: 発音がしっかりと定着し、相手の話の文脈を読み取って、より複雑な会話のキャッチボールができるようになります。人の話を集中して聞いたり、状況に合わせて言葉を使い分けたりと、全体的なコミュニケーション能力が大きく成長していきます。
お子様の成長のペースは本当に一人ひとり違いますので、あくまで一つの目安として捉えていただければと思います。
お家でできること:子どもを笑顔にする「言葉のプレゼント」
発音を良くするために一番大切なのは、お子さんの「お話ししたい!」という気持ちを大切に守り育てることです。ご家庭で今日からできる関わり方をご紹介します。

❌ やってはいけないこと:ダメ出しと言い直し
「違うでしょ、ちゃんと『さ』って言ってごらん」と、間違いを指摘して言い直しをさせるのは避けましょう。
これを繰り返すと、お子さんは「自分は話すのが下手なんだ」と傷つき、コミュニケーションをとること自体に恐怖心を抱いてしまう可能性があります。
⭕️ やってほしいこと①:正解の音を優しくプレゼント(リキャスト)
お子さんが間違った発音をした時は、それを否定せず、自然な会話のトーンで正しい発音を返してあげます。
• お子さん:「あ! だっとう(学校)だ!」
• 保護者の方:「ほんとだ、大きながっこうがあるね!」
このように、さりげなく正しい音を聞かせてあげるだけで、お子さんの脳には「正しい音のデータ」が少しずつ蓄積されていきます。
⭕️ やってほしいこと②:表情やしぐさから「名探偵」になる
滑舌が不明瞭なとき、「え?もう一回言って?」と何度も聞き返されると、子どもは諦めてしまうことが多いです。
そんな時は、お子さんの表情(嬉しそうか、困っているか)や、指さしている方向などの「しぐさ」をしっかり観察してみましょう。
「あ、絵本のくまさんを見て言ってるんだな」「お腹が空いたのかな」と状況から推理し、「〇〇って言ったのかな?」と気持ちを代弁して受け止めてあげましょう。
⭕️ やってほしいこと③:とにかく「伝わった喜び」を共有する
「ママ(パパ)に伝わった!」という経験が、一番の言葉の栄養です。
「教えてくれてありがとう!」「お話してくれて嬉しいな」とポジティブな声かけをしていきましょう。
🎈 遊びでお口周りをパワーアップ!
発音に必要な息のコントロールや、舌・唇の筋肉は、毎日の遊びや生活の中で鍛えることができます。

■ ブクブクうがい
洗面所などでお水を口に含んで頬を膨らませる「ブクブクうがい」をしてみてください。口をしっかり閉じる力や、ほっぺたの筋肉を使う良い練習になります。
■あいうえおの顔体操
鏡を見ながら「あ・い・う・え・お」と口を大げさに動かすだけでも、お口周りの筋肉(口輪筋など)の体操になります。
■しっかり噛んで食べる
食事の際に、よく噛むこと、そして唇や舌を使ってしっかり食べ物を舐めたり飲み込んだりすることも、立派なお口のトレーニングです。
■息をふーっと吹く遊び
シャボン玉や風車、笛のおもちゃなどを使って息を細く長く吐く遊びは、発音の基礎となる呼吸の力を育てます。
専門家(言語聴覚士など)を頼るタイミング
「家でのサポートだけでは不安」「専門家に発音の練習(構音訓練)をお願いしたい」と考えたとき、いつ始めるのがベストなのでしょうか。
カギとなるのは「本人のやる気」
本格的な発音の練習は、お子さん自身が自分の口の動きを意識できるようになる4〜5歳頃から始めることが多いです。
ただ、年齢以上に大切なのが「本人のモチベーション」です。
「お友達に聞き返されて困っている」「うまく読めなくて悔しい」など、お子さん本人が自分の発音を気にして「直したい!」と思い始めた時が、一番伸びるベストタイミングです。
逆に、本人に全くやる気がない時に無理に練習させても、苦痛になるだけで効果は上がりません。
どこに相談すればいい?
相談に行く際は、普段のお子さんの様子(どんな音を間違えやすいか、どんな時に話しにくそうか)を簡単なメモに残しておくと、専門家へスムーズに伝わります。

■医療機関(小児科・耳鼻咽喉科・発達外来など)
言葉の遅れや発音の気がかりが、耳の聞こえ(聴力)の問題や発達の特性によるものでないかを医学的に確認できる機関です。
まずはかかりつけの小児科に相談するか、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けるのが一般的な流れです。
必要に応じて、発達を専門とする医師の診察を受けたり、病院に所属する言語聴覚士からリハビリを受けたりすることができます。
健康保険が適用されるほか、療育などの公的サービスを利用する際に必要な「医師の診断書(意見書)」を作成してもらえる重要な役割も担っています。
■公的支援(ことばの教室など)
小学校や地域の教育センターに設置されている公的な教室です。
基本は小学生向けですが、自治体によっては3〜4歳の就学前相談を受け付けているところもあります。
無料で受けられますが、枠が埋まっていて待機になることもあります。
■民間支援(療育施設・ことばの相談室)
国家資格を持つ「言語聴覚士」が開設している民間の相談室です。
年齢制限がなく、1〜2歳の早い段階からでも相談に乗ってもらえます。
ボードゲームや手先の遊びなどを通じて、楽しく言葉を引き出す独自のプログラムを提供しているのが特徴です。
費用はかかりますが、柔軟な対応やオンライン相談などを行っている施設も多くあります。
おわりに
お子さんの滑舌が気になると、つい「ちゃんと発音させなきゃ」と焦ってしまうかもしれません。しかし、言葉の発達のゴールは「アナウンサーのように一言一句完璧に発音すること」ではありません。
一番大切なのは、お子さんが「自分の気持ちを誰かに伝えて、分かってもらえた!」という安心感と喜びを知ることです。
発音が少しふんわりしていても、まずはその可愛らしい時期のおしゃべりを一緒に楽しんでみてください。そして、もし「ちょっと気になるな」と思ったら、決して一人で抱え込まず、専門家に気軽に相談してみてくださいね。
