赤ちゃんがこの世界に生まれてきてから、身の回りの人と無数のスキンシップが行われています。
お母さんやお父さんから抱っこや声掛けをもらい、たくさんの愛情を日々受けています。
始めは眠っている時間が長いですが、成長していく中で生きていくうえで必要な刺激を日々感じています。
例えば自分自身の身体を見て興味を示したり、周囲の動きを気にし始めます。
手を自分の顔の前において「これはなんだろう」と思ったり、赤ちゃんを呼び掛けてくる声に反応し、そちらの方へ顔を向けたり。
少しずつ意識が外へと向けられていきます。
首が座ったりお座りが出来たり運動機能が高まるとともに目線や指さし等で他者に興味ある物を示していきます。
そんな赤ちゃんの動きに合わせるように大人たちもコミュニケーションを図っていきます。
私たち大人は無意識でジェスチャーや指差し等を交えながら赤ちゃんと関わっています。
例えば、赤ちゃんが上手にご飯を食べたり遊んでいる場面を思い返したら拍手しながら「よく出来たね」と褒めることが多いです。
このような身振りや指差し等の些細な動作こそ赤ちゃんは見ています。
その動作を赤ちゃんも自然と真似しコミュニケーション方法を学習していきます。
今回は真似しながらコミュニケーションを習得する方法についてお話します。
コミュニケーションの真似とは?
コミュニケーションと聞くとことば(音声)を思い浮かべますが、始めからことばを話す真似をする訳ではありません。
ことばを話すには理解力が必要であり、さらにはコミュニケーション意欲という人と繋がりたいという気持ちが必要となります。
そのためコミュニケーション意欲を高めることを目的として真似の学習を進めていきます。
具体的には模倣には冒頭でも触れたようにジェスチャーを指さし等の真似を始めとする動作模倣、操作模倣、口形模倣、音声模倣があります。
4つの模倣
動作模倣 →ジェスチャーの真似
操作模倣 →実際の玩具や生活道具の使い方の真似
口形模倣 →口の動きの真似
音声模倣 →大人の発した音の真似
このように赤ちゃんたちは大人たちの動作や使い方、口の動かし方、声を聴きながらコミュニケーション方法を習得します。
模倣に取り組もう
ここからは実際にどんな真似をしていけば良いのか。
という真髄を述べていきます。
私が行っていることばの学習というのは、家庭でも出来ることを心掛けています。
そのため子どもと関わる方、ご家族の方ともに参考にしてみてください。
上でも述べたように真似というのは模倣とも言いますが
動作模倣、操作模倣、口形模倣、音声模倣に分けます。
これらの模倣で共通するルールは上にもあったご褒美を活かすということ。
つまり模倣が出来たらご褒美をあげるということです。
これを上手に使ってコミュニケーション能力を身につけていきましょう。
では下記よりそれぞれの模倣について述べていきます。
模倣に取り組む時は必ずできる真似から始めます。
学習において易しいものから始めるというのは当たり前かもしれません。
必ず出来る模倣から行う理由としては
真似をするという概念を習得して欲しいからです。
動きを真似する(動作模倣)
全身や身振りを使った動きの模倣になります。
指差しはコミュニケーションの過程で大切なポイントなため指差しから始めても構いません。
しかし、指差しの動きである人差し指だけを突き出すという動きは意外と難しいです。そのためまずは手差し(手を伸ばす)という動作から始めることも必要になります。
指差し、手差し以外の動きにはどのようなものがあるでしょうか。
例えば手を上に挙げる動きはどうでしょうか。手を振る動き、拍手する動き。これらの動きは度々見る動きではないでしょうか。
そのためこれらの模倣から始めることで戸惑いなく進められるのではないでしょうか。
※動作模倣といっても動作のみで示すというより声掛けに対して身振りも行なっていきましょう。声掛けも行うことにより音声も真似(音声模倣)することも多々あります。
その他として
歯磨き
音声:「シャカシャカ」
動作: 口元に手を持っていく磨く動き
電話
音声:「もしもし」
動作: 手を耳に当てる動き
食べる
音声:「あむあむ」
動作: 口に食べ物を運ぶ動き
うさぎ
音声:「ぴょんぴょん」
動作: 両手を頭に持っていき耳を動かす
ぞう
音声:「ぱおー」
動作: 手を鼻の前に持っていき鼻を動かす
下記に記す操作模倣にある動作を用いることもあります。その場合はジェスチャーのみで示しましょう。
使い方の真似をする(操作模倣)
物を使った模倣になります。
操作模倣で使用する物は大人と子どものそれぞれの分が必要となります。
具体的にどのような物を使うのかと言うと、私はおままごとの玩具や楽器を使う事が多いです。
例えばおままごとセットの中に入っているスプーン。スプーンを使って食べる動きを模倣してもらいます。包丁であれば食べ物を切る動き。
動作模倣と同様に操作しながら声掛けもしましょう。
スプーン
音声:「あむあむ」
動作: スプーンを口元まで運ぶ
包丁
音声:「とんとん」
動作: 食べ物を切るような動き
太鼓
音声:「とんとん」
動作: バチを持って太鼓を鳴らす
笛
音声:「ぴー」
動作: 笛を吹く
操作模倣は家庭にある物の数だけ行うことができます。
子どもたちが普段使っているものであれば日々のルーティンとして模倣し易いです。
逆にあまり見ない物や初めて見る物の模倣の方が難しいです。
今回紹介している模倣はあくまでコミュニケーション意欲を高めるという目的のため行うため始めは容易に模倣しやすい物から始め少しずつ難易度を上げましょう。
口の動きを真似する(口形模倣)
口の動きは他の模倣と比べあまり馴染みのない模倣ではないでしょうか。
私たちが会話をする時はテレパシーのように頭の中で会話をしている訳でなく口を動かして会話をしています。
そのため意図的に口を動かすことを口形模倣を行なっていきます。
※口形模倣は下記の音声模倣と類似しています。コミュニケーション意欲もそうですが、ことばの発音や顔面筋トレーニングで度々使われます。
口を開ける
口を横に引く
口を窄める
舌を前に出す
舌を右(もしくは左)に出す
舌を上唇につける
頬を膨らませる
発する音を真似する(音声模倣)
音声模倣の話の前にことばの大事なお話し。
「うさぎ」ということばを聞いたら何を思い浮かべますか?
耳の長いあの動物を思い浮かべるかと思います。
私たちがこのように関連付け出来るということは「うさぎ」という音声と動物である“うさぎ”のそれぞれが結びついて理解が進んでいきます。
このようにことばは音だけの単一的でなく、意味される物↔︎意味する物というそれぞれの概念が存在します。
①意味される物をシニフィエと言います。(実物や動作のこと。)
②意味する物をシニフィアンと言います。(音声や文字のこと。)
例えば、耳の長い動物であるうさぎは①シニフィエであり、それが「うさぎ」という音声であることは②シニフィアンです。①と②はどちらも関係性がないことを恣意性があると言います。
なぜこの話をしたのかというと私たちは青信号を見た時緑色に見えたことはありませんか?それにも関わらず「青になったら渡る」のように教えていくと思います。
ことばを習得し始めた段階はこのような「緑色なのになぜ『青』と言う?」等の戸惑いが生じます。
そのためこの段階では実物と音声が関連し合っていることば(有縁性)から始めましょうということをお伝えしたいです。
では本題の音声模倣の話に入ります。
音声模倣は同じ音を発した模倣です。
私たちが日常会話している音というのは無数にあります。
一つの音(以下、単音)で表されることば(「え(絵)」)、二つの音で示されることば(「いぬ(犬)」)、三つの音で示されることば(「りんご」)等。
単音の方が発音動作は簡単ですが、単音だけで示すことばは少ないです。
身の回りにあるものを考えてみると2音以上のことばが圧倒的に多く感じると思います。
ことばは音の数が増えるほど話すことが難しく少ないほど話すことが簡単になります。
しかし、それは子どもの興味等でことばの習得は他者とは大幅に異なります。
言えないことばより言えることばの方が意欲的に取り組めます。
そのため音声模倣を始める時は
子どもの言える音から始めていきましょう。
例えば赤ちゃんであれば始語として「まま、まんま」ということばがあります。
「ま」という音は唇を使った音(以下、両唇音)でありとても発音が簡単です。
そのため「ま」を発していればこの音から始めてることがお勧めです。
しかし、ことばは個人差が大きく意図的に発せられる音が少ない子どももいます。
その場合は口形模倣から始めてみたり、母音(あ行)、両唇音(ま行、ぱ行、ば行)から始めてみてはどうでしょうか。
そして始めは単音から始めていきましょう。口遊びのようなものと捉えるとわかりやすいです。
「あー」
「うー」
「いー」
※これらの母音は口元を見るだけでも違いが理解しやすいです。
両唇音の場合は単音から始めることや「んーぱっ」と唇が閉じている場面を見てもらった状態で音を発すると面白味を感じる場合もあります。
ことばは単音だけでなく、連続して音が発せられます。
そのため単音だけでなく二音以上で組み合わせた音声模倣にも取り組んでみましょう。
「あーうー」
「いーあー」
「うーいー」
音声模倣で注意したい事は同じ音の組み合わせばかり使わないということ。
単音の習得を目的とした場合は繰り返し学習は必要ですが、二音以上では毎回「あーうー」の組み合わせでは口の動作が般化しにくいです。
そのため、「あーうー/うーあー/いーう/」のように連続した音を発することが可能であれば音の組み合わせを変えながら取り組みましょう。
母音や子音で複数の音の模倣が可能になったら、言える音を組み合わせて実在することばの練習をしていきましょう。
例えば「マ」「パ」が言えるようになったとしたら「ママ」「パパ」の言葉に挑戦してみてはどうでしょうか。
ま行やぱ行は両唇音であるため比較的発音がしやすい音であるためこれらのことばが始語として現れやすいというのは発音がしやすいと言うことにも関係してきます。
※ことばは無数にあり、ことばの習得にゴールはありません。
単音→単語→文のようにステップアップをしていきます。
そのため新たなことばを獲得したら大人はことばの使い方を示すことがとても大切なことです。
※音声模倣の捉え方は多岐に渡りコミュニケーション意欲を高める事や音を発する事を狙いとする場合もあります。今回のお話はどちらも当てはまる内容かと思います。
模倣が出来たら実生活へ活かす
模倣が出来たら実際の生活場面で活かしていきましょう。
例えば動作模倣で拍手や頂戴のサインを習得出来たら、生活場面に落とし込んでいきます。
子どもにおもちゃを渡す前に頂戴のサインを見せてから渡しましょう。
動作模倣で定着をしていればおもちゃを受け取る際に自分から(以下、自発的)サインを出してくれるかもしれません。
子どもにとって「欲しい」「〜したい」という気持ちがある時は動作や音声として自発的な行動として現れやすいです。
しかし、私たちはそのような気持ちの時に先回して物を渡すことが多いです。
先回りして私たちが反応してしまうことによって学ぶ機会が減っていきます。
「どうしたら良いかわからない」と戸惑っていたらお手本を示したり、同じ動きが出る様に身体を動かしてみてはどうでしょうか。
今回紹介した動作模倣、操作模倣、口形模倣、音声模倣は大人と子どもが面と向かって行うものでした。
ことばのレッスン時の時もこのように実施することが多いです。
レッスンで習得した力を日常生活の中で発揮出来るように、日々の生活の中でもこれらの模倣やコミュニケーションのやり取りを繰り返し行っていきましょう。